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「トラウマのケア」を考える①

B-1.「トラウマのケア」を考える①

ご質問&インデックス

  • Q1

    逆境的小児期体験(Adverse Childhood ExperienceACE)」という言葉を聞きました。言葉(概念)が生まれた経緯を教えてください。

  • Q2
    ACEs(逆境的小児期体験)」には、具体的に何が含まれるのですか。
  • Q3
    「子どものトラウマの表出特徴」は何ですか。
  • Q4

    「トラウマのケア」では、何をするのですか。

  • Q5
    「解離」って何ですか。

応答(室長からのメッセージ)

Q1逆境的小児期体験(Adverse Childhood ExperienceACE)」という言葉を聞きました。言葉(概念)が生まれた経緯を教えてください。

 「逆境的小児期体験(Adverse Childhood ExperienceACE)」についての影響が多く語られるようになってきており、耳にする方も多くなっているように思います。ACEとは、「小児期の健全な成長発達の過程に逆行するような有害な体験」を指します。このACEに関する研究は、カイザー・パーマネンテ(アメリカ最大級の健康保険組織と連携した医療機関)と米国疾病予防管理センター(CDC)の共同研究として始められました。1995年から1997年にかけて、17,000人以上のカイザー・パーマネンテの受診者に調査票を郵送し、18歳までの逆境体験(逆境的小児期体験)と大人になってからの健康状態との関係が調査されました。その結果に世間の注目が集まりだしたのは2015年以降のことです。結果とは、子どもの頃の逆境的体験の数と、成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することなどが明らかになったのです。アメリカでは、そのACEsとトラウマは、「肥満・依存症・重度の精神疾患・ひきこもり・仕事の欠勤」などの問題行動や身体的・精神的問題の出現要因、すなわち、公衆衛生問題の決定要因であるとされ、2018年には議会(米国議会)でも決議されるまでに至っています。

 また、ACE研究から、そのACEsとトラウマに、「重要な他者(配偶者・恋人・親・きょうだい・親友など)との安全な関係・関係性の構築(育み)、すなわち、良質な対人関係を育むことの効果が高い(対人関係療法などの効果が高い)」ということも分かりました(ここでは、トラウマ体験そのものではなく、現在、すなわち、「いま、ここ」の対人関係上の問題を扱っていきます。「いま、ここ」にこそ、トラウマの影響が垣間見え、そこに対応することが出来るからです)。

Q2ACEs(逆境的小児期体験)」には、具体的に何が含まれるのですか。

 ACE研究で用いられているACEsには、「虐待」「家庭の問題」「ネグレクト」の3つのカテゴリーとそこに付随する10のサブカテゴリーが含まれます(次の表のとおりです)。

ACEカテゴリー>

(1) 虐待

   心理的虐待、身体的虐待、性的虐待

(2) 家庭の問題

   ドメスティックバイオレンス(DV)、家庭内の薬物乱用、家庭内の精神障がい、家族の収監(刑事施設など)、親との離別・離婚

(3) ネグレクト(保護・養育義務を果たさず放任する行為のこと)

   身体的ネグレクト、心理的ネグレクト

 ここで留意したいことは、「トラウマ」とACE研究で指す「逆境的小児期体験」は、必ずしもイコールではないとのことです。

 

Q3「子どものトラウマの表出特徴」は何ですか。

 大人から見て「困った子どもだなあ」などとの思いに絡み取られる子どもは、トラウマの影響による生きにくさや生きづらさを抱えている可能性が高いとの理解がまず大切です。例えば、「イライラしやすく攻撃的でトラブルメーカー」となりがちだったり、「体のだるさなど身体の不調を常に訴える」などの言葉と振る舞いが目立ったり、「自傷行為を繰り返している」など対応に苦慮する行動が繰り返されたりなどです。まさに、『困った人は、困っている人』との理解の視点こそ、「トラウマインフォームドケア(Trauma Informed Care:TIC、後述のQ&Rをご覧ください)」が与えてくれるサポートの視点でもあります。

Q4「トラウマのケア」では、何をするのですか。

 ここでは、まず、「ケア」という言葉(概念)について紹介したいと思います。それは、「病・ケガや死は避けたいものであるが、避けられない。それを前提とした上で、生を肯定し、支える営みのことをケアと呼ぶ」ということです。そして、そのケアと、「トラウマ」の基本的理解と適切な対応を個別に受けることが出来るようにとのことから育まれたのが「トラウマインフォームドケア(Trauma Informed Care:TIC)」です。この「トラウマインフォームドケア(TIC)」では、次の4つのRを最重視します。

4つのR

(1) Realize

   トラウマについての知識を持ち

(2) Recognize

   どんな影響を受けているか認識して

(3) Respond

   適切な対応をすることで

(4) Resist re-traumatization

   再トラウマを予防する

 トラウマに対する適切な知識を持つことで、その影響を見過ごすことなく認識できます。また、その認識に基づいて適切な対応をすれば、ご相談者を傷つけてさらなる心的外傷を負わせることなく再トラウマを防ぐことができるという実践です。ご相談者とそのご家族、そして、専門スタッフ(カウンセラー&ソーシャルワーカー)などが、「トラウマの影響とその理解のメガネ」をとおし、トラウマを抱える方の振る舞いや言葉を理解する。トラウマインフォームドケアでは、そうした視点と関わりの姿勢が必要不可欠であることを強調しているのです。

 当相談室は、トラウマインフォームドケアの視点をご相談者と共に共有し、“カウンセリングとソーシャルサポート”の目標に向け協働していきます。また、カウンセラーは、そのための特別なトレーニングを重ねています[「トラウマ・フォーカスト認知行動療法、Trauma-Focused Cognitive Behavioural TherapyTF-CBT」や「アン・ワイザー・コーネル Ph.Dによるフォーカシング、Stopped Process,Healing Trauma,and Inner Relationship(停止したプロセス、トラウマの癒やし、内側との関係)」「ポリヴェーガル理論から学ぶトラウマケア」「トラウマ・ケア」など、トラウマに関する研修を数多く受講・修了し臨床力の向上を図り続けています]。その上で、ACEsやトラウマの問題を抱えるご相談者との“カウンセリングとソーシャルサポート”では、「現在の対人関係の問題(対人関係療法)」と「ナラティブ(語ること、トラウマ記憶を物語として育むこと)」及び「なにかまだはっきりしない意味を含んだ、漠然としたからだの感じ=フォーカシング・プロセス」に焦点を当てたケアを中心に、メンタライゼーションでガイド(「トラウマのケア」を考える②をご参照ください)しつつ提供いたします。そうしたカウンセリングにより、過去のトラウマ記憶に圧倒され縛られない「いま、ここ」を育むと同時に、希望と未来へと繋げます。そこに加え、日常生活の中でのご相談者自身の心身のケアの習慣化やそのための方法などのサポートをとおし、『より主体的で安全な生活(暮らし)の育み』を丁寧に支え伴走していきます。

Q5「解離」って何ですか。

 「解離」≒「分離」。解離するのは“自我(こころ)”で、例えば大きな災害や虐待・いじめなどに遭い、その危機的状況に自我(こころ)が耐えられそうにない時、防衛手段(深刻な打撃や苦悩を回避)として『解離』という方法が選択されると考えられています。自我(こころ)……換言すれば「わたし」……という意識が解離するということは、その自我(わたし)を成立させている記憶、意識、運動、視覚や触覚などの感覚が損なわれ、機能不全状態に陥ることを意味します。自我が「解離」を起こすことで、危機的な出来事をとりあえず意識せずに済んだり、注意を他にそらせたりすることが出来るのですが、このような対処方法は、さまざまな障害を引き起こすことになります。病的な解離の一例は次のとおりです。

<病的な解離>

(1)痛覚の解離

  「殴られているのに痛みを感じない」

 

(2)離人感を伴う解離

  「自分自身の身に起こっている事が他人事のようにしか感じられない」
 

(3)解離性健忘

  「行動した形跡があるのに記憶がない」

 

(4)現実感の喪失

  「まるで自分に起きていることが夢のようでとても現実だとは思えない」
 

(5)解離性遁走

  「気づけば知らない場所にいるが、どうやってここまで来たのか記憶がない」

 「トラウマのケア」の際、「解離」に対する理解は不可欠なものとなります。

 一例を挙げますと、今、ご相談者が抱えている「過去の特定の時期の記憶を思い出すことができない」という訴えが、解離性健忘によるものなのか忘却によるものなのかを見極めることがとても大切になるのです。

 そこでの、こころとしてのご相談者自身の守り方が、「抑圧(受け入れがたい感情や欲求を、意識の世界から無意識のこころの世界に締め出すことです)」によるものなのか、「解離」によるものなのかという深い理解につながるからです(こうしたことが、ご相談者の回復をより後押しする大切な鍵となるのです)。

 そうしたことから、当相談室では、ご相談者との“カウンセリング&ソーシャルサポート”で、重要視している視点の一つが「解離」なのです。

トラウマのケアを考える①

引用・参考文献 : ① RISTEXプロジェクト事務局 武庫川女子大学 精神保健福祉研究室内(2020)「トラウマへの気づきを高める“人・地域・社会”によるケアシステムの構築」による発行冊子. ②村上靖彦 著(2021)ケアとは何かー看護・福祉で大事なこと.中公新書. ③八木淳子 著(2022)逆境体験とは何か.そだちの科学.No39. 日本評論社. ④若林巴子 著(2022)ACE研究とは何か.そだちの科学.No39. 日本評論社. ⑤白川美也子 著(2019)トラウマのことがわかる本.講談社. ⑥亀岡智美 監訳 他(2018)SAMHSAのトラウマ概念とトラウマインフォームドアプローチのための手引き. ⑦ベッセル・ヴァン・デア・コーク 著(2016)身体はトラウマを記録する〜脳・心・体のつながりと回復のための手法〜.紀伊國屋書店. ⑧津田真人 著(2019)「ポリヴェーガル理論」を読む〜からだ・こころ・社会〜.星和書店. ⑨ピーター・A・ラヴィーン 著(2016)身体に閉じ込められたトラウマ〜ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケア〜.星和書店. ⑩岡野憲一郎 編・心理療法研究会 著(2010)わかりやすい「解離性障害」入門.星和書店. ⑪オノ・ヴァンデアハート 他著(2011)構造的解離:慢性外傷の理解と治療 上巻(基本的概念編).星和書店. ⑫サンドラ・ポールセン 著(2012)トラウマと解離症状の治療.東京書籍. ⑬ステファン・W・ポージェス 著(2018)ポリヴェーガル理論入門〜心身に変革をおこす「安全」と「絆」〜.春秋社. ⑭ジュディス・L・ハーマン(1999)心的外傷と回復<増補版>.みすず書房. ⑮亀岡智美 編(2022)実践トラウマインフォームドケア〜さまざまな領域での展開〜.日本評論社.⑯H・M・クレックレー + C・H・セグペン 著(1996)私という他人〜多重人格の精神病理〜.講談社.⑰リチャード・B・ガートナー 著(2005)少年への性的虐待〜男性被害者の心的外傷と精神分析治療〜.作品社.

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