宇都宮市・鹿沼市近辺での
『 カウンセリング & 伴走型ソーシャルサポート
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「トラウマのケア」を考える②

B-2.「トラウマのケア」を考える②

ご質問&インデックス

  • Q1
    「トラウマのケア」のための“カウンセリングとソーシャルサポート”で、『メンタライゼーションでガイドする』との視点を大切にしているとお聞きしました。「メンタライゼーション」という言葉は初めて聞きます。教えてください。
  • Q2
    「外傷的育ち」について教えてください。
  • Q3
    「外傷的育ちに関係の深い病名・概念」について教えてください。
  • Q4

    「機能不全家族のルールの特徴」とは何なのでしょう。

  • Q5
    「アダルト・チルドレン(AC)の心理の特徴」とは何なのでしょう。
  • Q6
    「外傷的育ちの心理の特徴」とな何なのでしょう。
  • Q7
    「学習性無力感」とは何なのでしょう。

応答(室長からのメッセージ)

Q1.「トラウマのケア」のための“カウンセリングとソーシャルサポート”で、『メンタライゼーションでガイドする』との視点を大切にしているとお聞きしました。「メンタライゼーション」という言葉は初めて聞きます。教えてください。

 ジグムント・フロイト(精神分析を創始)が、心の病の原因が幼少期の虐待などにあるとする「外傷起源説」を一時主張しやがて放棄します。しかしその後も、フロイトの後を追う精神分析家たちは、外傷的育ちによる心の病を研究する「外傷理論」を連綿と紡ぎました。その紡ぎは、1950年代に入り、イギリスのJ.ボウルビィらによる「愛着理論(アタッチメント理論)」へと繋がります。その繋がりを汲み、2000年代にP.フォナギーとA.W.ベイトマンによる「メンタライゼーション治療理論」が生み出されたのです。メンタライゼーション(mentalization)とは、「自己・他者の言動・行為を、心理状態(欲求・感情・信念)に基づいた意味のあるものとして理解すること」を意味し、メンタライズする(mentalize)という動詞形で使われます。難しそうに聞こえますが、例えば「彼はどういう気持ちからああいう行動をとったんだろう?」と慮ったり(おもんばかったり)、「どうして私は今彼に対してそんなにイライラしてしまうのだろう?」と自らを省みたりという、誰もが日常的に行っている心の作業を指します[「心でもって、心を思うこと・包むこと(Holding mind in mind)」と表現されています]。しかし、幼少期に外傷的な養育環境の中にあるとこの「メンタライズ力」が健康に育たず、メンタライズ力の不足が大人になって種々の心の病につながると考え、治療によってメンタライズ力の成長を促し、外傷的育ち特有の症状や病的な行動の改善を図るのが『メンタライゼーションに基づく治療(mentalization-based treatmentMBT)の治療理論を中心に据えたアプローチ』と呼びます。

 当相談室の専門スタッフ(カウンセラー&ソーシャルワーカー)は、ご相談者との“カウンセリングとソーシャルサポート” で、“共に目標(ゴール)に向かっていくプロセス(道程)”を、この『メンタライゼーションでガイドする(ゴールへの道案内をする)』との視点を礎に協働します。また、カウンセラーは、日本メンタライゼーション研究会・日本こども虐待防止学会などに所属し、「トラウマのケア」についての臨床力の向上を継続し図っています。

Q2「外傷的育ち」について教えてください。

 子どものころに虐待を受けてきた人、過度な支配や制限、自主性の剥奪や過度な従属の強制、外傷になるような離別や死別など、心の傷、おそらく脳(中枢神経系)にダメージを受けるような養育体験とその深刻な影響を受けざるを得なかった育ちのことを言います。そして、この影響は、大人になると、自己評価を過度に低く下げておく、自分の感情の存在を「度外視」する、自分のために怒れないなどの共通の心理行動特徴を生み出します。

 崔(日本におけるメンタライゼーションのガイド役の一人。別記、引用・参考文献を参照してください)は、「外傷的育ち」について、そう整理しています。

Q3「外傷的育ちに関係の深い病名・概念」について教えてください。

 日本におけるメンタライゼーションのガイド役の一人である崔(別記、引用・参考文献を参照してください)は、「境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorderBPD)」、「複雑性PTSD(「トラウマのケア」を考える①で紹介)」「アダルト・チルドレン(AC)」の3つを挙げています。境界性パーソナリティ障害の「パーソナリティ」とは、「人格」「性格」との日本語に訳されますが、簡潔に言えば「人づきあいにおける癖やパターンのこと」のことです。

 ではここで、「境界性パーソナリティ障害」の診断基準(米国精神医学会による精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版、DSM-5)を見てみましょう。

<境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)>

 対人関係、自己像、情動などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

1.  現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力
2.  理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係の様式
3.  同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識

4.  自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの

(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、過食)

5.  自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
6.  顕著な気分反応性による感情の不安定性(例:通常は2〜3週間持続し、2〜3日以上持続することはまれな強い不快気分、いらだたしさ、または不安)
7.  慢性的な空虚感
8.  不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いの喧嘩を繰り返す)
9.  一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状

 以上のように、全体として感情を調節することが苦手であることに関連する症状が中心になっています。専門家によっては、「境界性パーソナリティ障害(BPD)」の基軸症状の筆頭が『感情調整機能不全』であると指摘します。                       

 次に、「アダルト・チルドレン(AC)」を見てみましょう。アルコール依存症の医療や福祉の領域では、依存症者の子どもたちに独特の心理的な特徴がみられることを、ソーシャルワーカーなどが指摘していました。しかし、それはあくまで専門家の間での一つの関心事に過ぎませんでした。それが一般に広まり出したのは、アメリカのジャネット・G・ウォイティッツが1983年に出版した『アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリクス』(邦訳『アダルト・チルドレンーアルコール問題家族で育った子供たち』金剛出版 1997年)とう本が切っ掛けです。数年後にはベストセラーとなり、世界各国で翻訳され数百万部以上が売れたと言われています。日本でも、1980年代後半から、依存症臨床にかかわる専門家の間では知られるようになっていました。が、1995年にアメリカのクリントン大統領が「自分はACである」と告白(カミングアウト)し、広く一般に知られることになったのです。その後、日本でも、斎藤が著しAC概念とそこに込められた意味を紐解くガイド役となった「アダルトチルドレンと家族」など、ACについて解説する良質な本の出版などが続きました。そうした本が反響を呼び、ACについて新聞や雑誌などが頻回に取り上げるようになり、一種の「社会現象」となったのです。

 では、「アダルト・チルドレン(AC)」とは何なのでしょう。Adult Children of Dysfunctional Family の略で、機能不全の家族で育ち大人になった人のことを指します。ここで留意したいのは、ACとは、『「いま、ここ」の生きづらさや生きにくさの起因として、機能不全家族で育たざるを得なかったその深刻な負の影響こそ大きいのだとの自己理解(自己認知、アイデンティティ)を助ける鍵概念(言葉)』で、医学的な診断名ではないということです。つまり、Dysfunction(機能不全)とは、「(全体的統合化に反する)逆機能」という意味となります。換言しますと、機能不全家族と言う時には「マイナスの機能を持った家族」という意味になります。本来「完全な家族」というものはありません。どれほど子どもに時間を割いたかといったプラス機能はあまり問題にはなりません。なぜなら子どもは、どのような家族で育ったとしても、それなりにその現実を受け取って限界の中で十分育つ力を持っているのです。しかし、どんなにプラス機能(例:取り敢えず食事だけは食べられる)が大きくても余分なマイナス機能(例:予測のつかない母親からの虐待など)がついていると子どもはそれに反応することにエネルギーを削がれ、プラス機能を受け取れず健康に成長していくことが出来なくなります。

Q4「機能不全家族のルールの特徴」とは何なのでしょう。

 どの家族にも、ルールがあります。そのルールが可視化され、家族成員間で語られ、適宜、修正・変更などがなされる家族の関係・関係性であるのであれば問題となることはまずありません(例:テレビのチャンネル権を適宜話し合いで調整・決定するなど)。ここで特に問題(深刻な負の影響)となるのは、『見えない・隠されたルール』のことです。「機能不全家族」では、「しゃべるな」「信じるな」「感じるな」「考えるな」「疑問をもつな」「要求するな」「遊んではいけない」「間違えてはいけない」などの見えない・隠されたルールが、家族の関係・関係性を深く縛っていることが多いのです。この見えない・隠されたルールは、「そもそもないのだ」との強烈で過酷な掟で隠蔽されてもいるのです。「巧妙に、不可解で、強力に」隠蔽されていると換言することも出来ます。そして、20代以降になって、このルールの呪縛に巻き込まれた家族成員が、こうしたルールの深刻な負の影響(呪縛)に揺れ立ちすくみ出すのです。内なるSOSのメッセージに翻弄され始めるとも言えるでしょう。当相談室専門スタッフ(カウンセラー&ソーシャルワーカー)の臨床実践での実感です。

Q5「アダルト・チルドレン(AC)の心理の特徴」とは何なのでしょう。

 安全感と信頼感の欠如である「不信」、愛情希求と不全感・被害感である「恨み(発酵した怒り)」、そして過度の警戒心と感情否認である「緊張」です。これらは家族の機能不全に適応してサバイバルしていく中で、「生き延びるために(適応するために、こころとしての自分自身を守るために)」学習されたものと言えます。また健康な自我(エゴ、“こころ”たる“わたし”)が発達せず自己像の不安定さも目立ちます。特に自己像が矮小化していることが多く、「否定されてきた自分像」に執着し、「恥」「罪責感」といった自己否定的な感情にさいなまれることが多いのです。逆に「中心となって役割を担う自分」という役割意識から発展したり、否定的自己像への反転として起こる肥大化した自己像を持つこともあります。多くはこの矮小な自己像と肥大した自己像の間を行ったり来たりします。ここで大切なのは、何れも現実のあるがままの(等身大の)自己と食い違っていることこそが問題となるのです。この食い違いは、当然、「自己像の認知の歪み」をもたらします。そのため、他者との関係の中で、問題を抱えトラブルも生じやすくもなるのです。また、「生き延びるための学習」は、往々にして感情の麻痺や鈍麻を必然として後押ししてきました。そのため、ACは、「自分が何を感じているか」「何が心地よいのか」など分からない状態に陥ります。そのため、時に、爆発的な感情表出や矛盾した感情表出を起こし、自分自身も周囲の人たちも困惑し立ちすくみます。これは、機能不全家族の予測不能・理解不能な不安定性に起因し、そこへの適応の術として、常にアラート状態たる心理を保ち生き延びてきた「結果」とも言えるでしょう。また、その反動としての「アパシー(無気力状態)」に陥ることも多いのです。

 そして、上述した適応の術(生き延びるための学習)の結果、「自尊心(自信、健全な自己愛)」を育むことが極めて困難になっていたのです。そのため、自分の存在の価値と保証を、「他者による承認に求める」との傾向と特徴が自ずと強くもなっていったのです。そうしたことも、他者との関係の中で、問題を抱えトラブルも生じやすい要因の一つだったのです。また、生き延びるための学習(適応の術)によって、ACは、タイプ分類されることもあります。「HERO:ヒーロー=家族の期待を一身に背負ったタイプ」「SCAPEGOAT:身代わり=家族の問題を行動化するタイプ」「LOST CHILD:いなくなった子=存在しないふりをして生き延びたタイプ」「CROWN:道化師=おどけた仮面を被って不安を隠してきたタイプ」「CARETAKER:世話役=親や周囲の面倒を見てきたタイプ」の5つです。

 そうしたことから、ACは、「自己承認を巡っての歪んだ心理」が、体感・実感としての生きづらさや生きにくさの中心(基軸)を成しているとも言えましょう。

Q6「外傷的育ちの心理の特徴」とな何なのでしょう。

 「外傷的育ちに関係の深い病名・概念」の応答(RResponce)で、「境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorderBPD)」、「複雑性PTSD(「トラウマのケア」を考える①で紹介)」「アダルト・チルドレン(AC)」の3つを挙げました。その3つを、崔は、「外傷的育ちのトライアングル」として、その心理・行動特徴を次のように整理しています(この3つは、重層的・複合的に重なり合います)。

<「外傷的育ちのトライアングル」の心理・行動特徴>

(1) 複雑性PTSD

   見捨てられ恐怖症(生理学的な恐怖反応)

(2) 境界性パーソナリティ障害(BPD

   感情調整障害

(3) アダルト・チルドレン(AC

   自己承認の病理(存在の無条件性の欠如・条件付き自己承認・嗜癖的自己承認)

 当相談室では、そうした3つの心理・行動特徴を理解した上で、この問題に揺れ立ちすくむご相談者との“カウンセリングとソーシャルサポート”の心理的目標(ゴール)には、『自律性を土台とした主体性の育み』を加えていきます(ご相談者とのご同意の手続きの上です)。そして、ご相談者の『より主体的で安全な生活(暮らし)の育み』を丁寧に支え伴走・協働していきます。

Q7.「学習性無力感」とは何なのでしょう。

 これは、心理学者のセリグマンが犬の実験で明らかにした現象です。この現象とは、長期に渡って強い苦痛やストレスにさらされ続けると、どうあがいても、この状況を自ら変えることができないという感覚を学習してしまうことです。結果として、変えようとすること自体を放棄し、無反応となってしまいます。

 セリグマンはまた、人間のある種の抑うつの形成にも同様なメカニズムが働くことを指摘しています。

「トラウマのケア」を考える②

引用・参考文献 : ① 崔炯仁 著(2016)メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服ー<心を見わたす心>と<自他境界>をはぐくむアプローチ.星和書店. ②斎藤学 著(1996)アダルト・チルドレンと家族ー心の中の子どもを癒す.学陽書房. ③クラウディア・ブラック 著(2004)私は親のようにならない<改訂版>ー嗜癖問題とその子どもたちへの影響.誠信書房. ④斎藤学 監修 アダルト・チルドレン一問一答編集委員会編(2002)知っていますか?アダルト・チルドレン一問一答.解放出版社. ⑤ジャネット・G・ウォイティッツ 著(1997)アダルト・チルドレンーアルコール問題家族で育った子供たち.金剛出版.⑥中島義明 他編(1999)心理学辞典.有斐閣. ⑥松木邦裕 編(2021)トラウマの精神分析的アプローチ.金剛出版. ⑦スティーブン・ジョセフ 著(2013)トラウマ後成長と回復〜心の傷を超えるための6つのステップ〜.筑摩書房.

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